はじめまして。東京の江古田という町で「Game in えびせん」というゲームセンターやっております
えび店長 と申します。
当店はアストロシティとブラストシティのみが20台ほど並んでいる小さなお店です。
メダルゲーム、プリクラ、プライズマシン、音ゲー一切ありません。
ブラウン管筐体にレバーとボタン。これだけです。
お客さまはスコアラーの方が多いです。
僕も引退ぎみですがスコアラーです。
「スコアラー」ゲームで点数を稼ぐ人々。
古くは1980年代、ベーマガやゲーメストのハイスコアコーナーで日本中の猛者達が鎬を削っておりました。
月に一回各誌で全国のゲームセンターから送られてくるハイスコアを集計して全国トップを決める。
対戦格闘ゲームが主流になる前は各誌面でハイスコアを競う事が全国の腕自慢たちの戦いの場でもあったのです。
その後ゲーメストの廃刊に伴いその場がアルカディア移行。そして現在はネットにてJHAの元、
ハイスコアの集計が行われております。
「ハイスコア」この文化はまだ脈々と続いているのです。
今回はこのハイスコアについてお話させていただこうと思います。
実際にゲームセンターでハイスコアを出してそれが誌面に乗るまでの流れは二つあります。
ベーマガ、ゲーメストからアルカディアまではハイスコアページに記載されている店舗を「集計店」と
呼んでいました。
例えばゲーメストの集計店でハイスコアを出す。お店にあるノートに点数と自分の名前(スコアネーム)を記入して
お店の方に確認してもらう。
お店の方が月毎の締め切り日にその月に出たスコアを纏めてゲーメストに送る。
そうするとスコアが次の月の集計店舗欄に記載される。
このように集計店からハイスコアを申請する方法がまず一つ。
もう一つが集計店以外の店舗からハイスコアを申請する方法です。
集計店以外でスコアを申請する場合はゲーメストに付いてる専用のハガキに必要事項を記入してお店の方に
確認(要ハンコ)してもらう。
そのハガキを自分でゲーメストに送る。この方法は「個人申請」と呼ばれていました。
お店の方に確認の署名とハンコを押してもらう必要があった為、知り合いの店員さんがいないお店からの個人申請
となると中々にハードルの高いものでした。
そして集計店からの申請も個人申請も同じく、そのスコアが全国トップだったら「君こそゲーメスト!」に
記載されてめでたく全一となる。
こんな仕組みでした。
特にゲーメストでは毎月全国トップを獲った数(☆といいます)を全国の集計店で争い、
一年間で☆獲得の多い店舗の1位から3位をゲーメスト大賞で表彰していたので、この年間☆争いは
本当に熾烈なものでした。
因みに☆争いに関わってくる☆には賞味期限があり、初回集計から五か月目までが☆(白星)としてカウントされ、
それを過ぎると★(黒星)となります。
集計店舗による☆争いはこの☆のみをカウントするので各店舗の新作ゲームの入荷状況も重要な要素になってました。
現在のハイスコア事情はこの集計店☆争いがありませんのであくまでも「個人戦」
対して当時のハイスコアは集計店同士による「団体戦」の趣があったのです。
個人戦ならば「よっしゃ勝った!」「あ~負けたか~」で済む話なんですが、団体戦ではこうはいきません。
獲れなかった☆は当然他の店に獲られる訳ですから、僅差で競ってる集計店だと致命的です。責任問題になります。
もはや遊びじゃありません。仕事です。
まだ結果(今月出すべきスコア)が出ていない締め切り日の夜にご飯食べに行くなんて
時間がもったいなくて出来ません。
既に結果が出ているスコアラーも万が一にも他店のライバルに負ける訳にはいかないので最後まで全力で追い込みます。
いわゆる「飯は甘え」。恐ろしい。
えびせんも良く言われるのですが「怖い」「殺伐としてそう」という集計店にある怖いイメージは主に
集計店☆争いがあった時代に生まれたのではないかと思ってます。致し方ない。
先にも書きましたが今は個人戦の時代ですので、全然怖くないですよ。
スコアラーの皆さま、自分の好きな思い思いのゲームを深く追求しているのみですので
写経や読経に近い趣があります。
和の心です。
時に1996年。
僕が若い頃、地元の江古田にも集計店がありました。
当時の僕はゲーメストの全国トップ欄を見ながらトップスコアラーの皆さまに憧れる
ミーハーなファンボーイの一人でした。
自分の好きなゲームでハイスコアの真似事をしていましたが全一にはかすりもすない。
そんな時に地元に「Jogo江古田」という新しいゲームセンターがオープンしました。
地元のゲーム仲間によると「ヒノーズ下井草」という有名集計店と経営元が同じで
江古田の店長さんも下井草のスコアラーさんとの事。
そのつてで下井草のスコアラーさんも江古田に来ていると。
もう大興奮です。なんという僥倖。
それからはJogo江古田に通い倒し、見よう見まねでハイスコアを狙う日々を送りました。
とは言ってもJogo江古田は「おら!お前ら今月のノルマ終わってんのか!」といった雰囲気は全くなく
スコアラーの皆さまも思い思いのペースで自分の好きなゲームのスコアを詰めているという和やかなお店でした。
ですが実際に結果を出しにいっている時のスコアラーさんの気迫とやり込みは尋常ではなく
当時の自分は圧倒されたものです。
そんな感じでハイスコアを狙いつつ格ゲーもやったりしながら楽しいスコアラー生活を送っていた時に
事件がおこります。
1998年 「ハイパーオリンピックインナガノ」(以下ナガノ) 入荷。
名前の通り、長野で開催された冬季オリンピックをモチーフにしたスポーツゲームです。
Jogo江古田では以前にデカスリートやウィンターヒート等のスポーツゲームで全一を獲った経験のある
スコアラーさんもおり、僕自身も全一には全く届かなかったもののデカスリートは好きでそれなりにやっていました。
そんな感じでスポーツゲームが好きな何人かでナガノをワイワイ遊び始めた訳です。
この時点ではナガノがゲーメストで集計されるかは全くの不明。
むしろ全然出回りが無く、だれも集計されるとは考えていませんでした。
とりあえず一応ナガノも送っておくかとJogoの集計担当さんがスコアをゲーメストに送った翌月。
…ナガノ集計してるよ…送ったスコア全部☆獲っちゃってるよ…
もう大変な事になりました。集計店舗欄を見てもナガノが入荷されてるお店は江古田の他に1店舗のみ。
つまりこれから数か月☆獲り放題。ゴールドラッシュ突入です。
それからはチームナガノで担当種目を割り振り、各自毎月スコアを確実に伸ばす事に集中していきました。
最初こそ気持ち良く毎月スコアを更新して着実に☆を積み重ねていたチームナガノでしたが
当たり前ですが月が経過する毎にスコアを更新するのがキツくなっていきます。
自分で出したスコアが自分を苦しめていく。
そもそも初回集計で限界値まで出てしまって集計打ち切りになった部門も幾つかあったくらいですので
今から考えると「そんなに飛ばさなくてもよかったのではないか…」という話です。
段々とナガノで稼げる☆は減っていきました。
そんな時に新作格闘ゲームが江古田に入荷しました。「ストリートファイターEX2」(以下EX2)
格ゲーですのでキャラ別集計になり部門も多い。さらにJogo江古田は格ゲーで全一を獲って来た経験者も多く
絶好の☆獲得のチャンス。皆でEX2をやり始めました。
このゲーム、ラウンドを取られずにストレートで勝っていくとストレートボーナスが入ります。
ストレートで勝ち続けるとこのストレートボーナスがどんどん高くなっていく仕様なので、
わざと負けて技点で稼ぐよりもパーフェクトを狙いつつストレートでクリアするのが基本方針となりそうです。
なるほどなるほど。
そんな具合にゲームの方針を見極め各自初回集計に向けてスコアを出しに行っていました。
そんな時、とんでもない事件がおこります。
ある日いつもの様にEX2をリュウでプレイしていたスコアラーが3面をクリアした瞬間、画面が割れるエフェクトが発生し
突然CPUが乱入してきたのです。
この乱入CPUは「カイリ」
「なんだこれは!?」と一同騒然となりました。
格ゲーのスコアにおいて対戦CPUが1キャラ余分に増えるだけでも単純に点数は上がるのに、カイリをストレートで倒すと
ストレートボーナスが一気に跳ね上がったのです。
その伸び方は頑張って稼いで200万程だったスコアがカイリを出してクリアすればそれだけで250万を超える
といった程でした。
…カイリが出なかったら話にならない
誰もがそう確信しました。
それから皆で必死にカイリの乱入条件を探します。
…が、駄目…全く出てこない…思いつく限りの事を皆でひたすら試し続けるも偶然に出た一回きりで
その後カイリが出てくる事はありませんでした。
そのままEX2のキャラ別初回集計が終わり結果が出ます。
偶然カイリが出たリュウは勿論、他1キャラで無事☆を獲っており、他キャラは「アイリン夢空間」や
「ゲームコーナーフジ」等、名門集計店が☆を分け合う結果となりました。
その後もJogo江古田はカイリの乱入条件がわからないまま時は過ぎ、EX2キャラ別2回目集計の結果が出ます。
衝撃のアイリン夢空間、EX2全キャラ独占
しかもそのスコアは250万を軽々と超えているものも多く、全キャラ間違いなくカイリを出したに違いないものでした。
「アイリン夢空間はカイリの乱入条件をもう既に解明している」
この事に疑いの余地はありません。
この時点での☆争いはナガノで荒稼ぎした☆が効いてJogo江古田がトップ。
しかしこのままEX2でアイリン夢空間に☆を独占されたら恐らく逆転されるでしょう。
皆この後も必死でカイリの乱入条件を探し続け、何とかキャラ別3回目集計時にはJogo江古田もカイリ乱入条件を特定。
EX2ではアイリン夢空間に必死で追いすがる展開が続いていきます。
EX2でアイリン夢空間にかなりの☆を稼がれ猛追される中、次の新作格闘ゲーム
「ストリートファイターZERO3」が発売されます。
Jogo江古田としてもここで巻き返しを図りたい所だったのですが、名作格闘ゲームの新作という事もあり
ライバル集計店も多く、特に前作「ZERO2」からこのシリーズを熟知している名門
「扇ヶ丘レジャーセンター」の攻略スピードは凄まじく、思う様に☆が獲れません。
それでも各自自分の担当ゲームを必死に追い込み、更には知り合いのスコアラーさんが助っ人でスコアを
出しに来てくれたりもしたのですが、最後の最後
アイリン夢空間に逆転を許し、最終的にJogo江古田は2位でのフィニッシュとなるのでした。
悔しい結果に終わったものの、今考えれば滅多に味わう事の出来ない年間☆争いのデッドヒートを経験出来ただけで
良い思い出だと感じます。
後にアイリン夢空間のスコアラーさんとお会いして当時のアイリンサイドのお話を聞けたのも本当にいい思い出です。
この年間☆争いはゲーメストの廃刊と同時に終了し、アルカディアからのハイスコア争いは個人戦へと移っていきます。
現在のアーケードシーンは新作の発売ペースは当時に比べれば随分減ってはいるものの、EXA基板や
ALL.Net P-ras等で新作は出ていますし、もちろんJHAでの集計タイトルにもなっています。
まだまだハイスコア争いは続いていきます。
ここで「ハイスコア楽しいよ!皆もやろうよ!」と言って文章を締めたい所なのですが、このハイスコア
個人的には気軽にオススメ出来ない側面もあったりします。
いかんせん過酷すぎる。
勝者は常に一人だけ。全一に1点でも負けていればそれは0点と同じ。
そして勝者も歩みを止めれば誰かに抜かれる。
そのタイトルを狙っているプレイヤーがいなくならない限り決して終わらない戦い。
あまりにも自分を追い込み過ぎて心や身体を壊してしまう人もいます。
本当に残酷な世界です。
それでも頑張って頑張って全一スコアが出た瞬間の脳汁は他の何にも変えられない程気持ちがいいものですし
同じゲームで鎬を削ったライバルと実際に会ってお話するのは「あぁ、僕はこの為にこのゲームをやり込んでいたんだ」
と思うほど楽しいものです。(あくまでも個人の感想です)
好きなゲームをやり続けて遂に1コインでオールクリアした!嬉しい!でもまだまだこのゲームをやり続けたい!
そう思える方、ハイスコアに向いております。是非そのまま突き詰めていって下さい!
そうは言ってもなかなかビデオゲームが出来る環境自体減ってしまっている昨今ですが
それでも頑張っているゲームセンターさんは沢山ありますし
僕も微力ながらこのハイスコア文化の火を消さぬように頑張っていこうと思います。
長々と昔話にお付き合い下さいまして誠にありがとう御座いました。
皆さまも良きゲーセンライフを!
それでは次のバトンはえびせんの若手スコアラーはまみ君に渡そうと思います。